ドゥラメンテ

知らせは思いがけなくやってくる。
理解しているつもりでも、受け入れられないことがある。

ドゥラメンテ。

皐月賞の爆発的な末脚がこの子を最も象徴する強さだろう。

もちろんそれは見る者を圧倒させてくれたが、わたしがこの子にとてつもなく惹かれたのはラストランとなった宝塚記念だった。

ゴール後に脚を故障し、ミルコ・デムーロが下馬したのは皆の知る所。

下馬した後もその場から立ち去れず、少し離れた場でミルコは佇んでいた。

その姿を真っ直ぐな眼差しでドゥラは見つめていた。

自分に起こった異変より、自分に跨っていた人の挙動を明らかに心配していた。

色々な意見があるが、ドゥラを故障させてしまったのは、やはりミルコの騎乗に難があったのだろう。

それでもパートナーへ向けた思いやり。競走馬としての能力とは違う、本物の強さだった。

かつてキーストンという馬が競走中止した直後、落馬した騎手に駆け寄る映像を見たことがある。

美談に仕立て上げたなんて意地悪な声もあるようだが、その場にいた人々、中継を見ていた人々は馬の無償の優しさに涙したと聞く。

やがてドゥラも、己の身について覚悟を決めたように馬運車へ消えていった。

だけどもドゥラはここで果てることは無かった。

負傷した脚は痛みが残り、馬によっては耐え難い苦痛になる場合がある。

ドゥラは痛みも自分の馬生なのだと受け止めて、その血を残すことに身を捧げた。

そして・・・

急性大腸炎。

その2年前、ディープインパクトと父キングカメハメハが相次いでこの世を去り、種付けのスタンスに批判が集中した。

わたしはこの時期ご縁があって、社台スタリオンステーションでドゥラを始めとする種牡馬たちに会うことができた。

スタッフの方々は、この悲しみを繰り返さないようドゥラ達に決して無理をさせないと決意を示してくれた。

その志は本物で、社台にとってもドゥラの旅立ちは本当に思いもよらなかったものだったろう。

ドゥラは強すぎた。

競走馬としても、生き物としても。

繊細なサラブレッドの肉体は、この子の心の強さに耐えられなかったのだ。

種付けシーズンも終わり、来年の種付料の査定もまだ先のこの時期、誰にも迷惑をかけないよ、とあっという間に・・・

時にはロングヘアだったたてがみと可愛いおでこの星。

美人といわれた母アドマイヤグルーヴ似の瞳と鼻筋にキングカメハメハの泥臭ささを合わせたような顔つき。

長い背中、そして脚・・・

無いとわかっていてもその姿を探している。

何もかもが愛しい。

ただ愛しい。

三冠を獲ってほしかった。

凱旋門賞で走ってほしかった。

本当はユタカさんに乗ってほしかった。

別れの言葉も感謝の言葉も言いたくない。

わたしの命が尽きて、ドゥラと同じ場所へ行ったとき。

その時に言いたい言葉を伝えよう。

しばらく待っていてね、ドゥラ。